50を過ぎて剣術入門、気がつけば60超え

古武術の稽古日記です。

五輪書を読む 水之巻 15 五方の構の事

一 五方の構の事

●原文 五方のかまへは、上段、中段、下段、右のわきにかまゆる事、左のわきにかまゆる事、是五方也。構五つにわかつといへども、皆人をきらん為也。構五つより外はなし。いづれのかまえなりとも、かまゆるとおもはず、きる事なりとおもふべし。構の大小はことにより利にしたがふべし。上中下は躰の構也。両わきはゆふの構也。右ひだりの構、うへのつまりて、わき一方つまりたる所などにての構也。右ひだりは所によりて分別あり。此道の大事にいはく、構のきわまりは中段と心得べし。中段、構の本意也。兵法大きにして見よ。中段は大将の座也、大将につぎ、あと四段の構也。能々吟味すべし。

○私訳 5通りの構えとは、上段・中段・下段・右の脇構え・左の脇構えの五つである。

構えを分ければこの5通りであって、これ以外には無いが、全ての構えは人を切るためのものである。だから、どの構えを執るにせよ構え自体が目的ではないのであって、重要な事は切るということ、そのための構えであり、一つの構えの固まることは本末転倒である。

同じ構えでも一様ではなく、ある時は大きく構え、またある時は小さくと状況に応じて有利な構えを採用する必要がある。

上段・中段・下段は本筋の構えであり、基本の構えである。
これに対して、両の脇構えは応用の構えである。天井が迫っていたり、左右に壁が迫っていたりなど必要に応じて左右の脇に構える。右・左は状況に応じて判断すれば良い。

構えを突き詰めれば、構えは中段を以って最善となすと心得ること。中段こそ構えの真髄である。
大きな兵法を用いて合戦の場に当てはめれば、中段とは大将の座であり、他の4つは中段の下位に位置するものである。
以上のこと、良く研究すること。

☆左右の脇構えが、現代の脇構えそのものを言うのか、八相も含むのかは、これだけでは不明。

いづれのかまえなりとも、かまゆるとおもはず、きる事なりとおもふべし」という一節は鮮烈であり、有名で、広く引用されるが、勝手に深読みしないほうが良いように思える。兵法の他の動作についてと同様に、固まること、捉われることの禁忌と理解するに留めた方が良い。
「構のきわまりは中段」とはそういうことだろう。

兵法三十五箇条には、構えについて次のような記述がある。
構えには下等・並・上等の3つのランクがあって、
「強く見え、速く見ゆる」ものは下等、
「細やかに見え、術をてらひ、拍子良く見え、品位があって、見事に見える」ものは並、
「強からず弱からず、角張らず、速からず、見事に見えず、悪くも見えず、大いに真っ直ぐであり、静かに見える」ものが上等であるとしている。