50を過ぎて剣術入門、気がつけば60超え

古武術の稽古日記です。

五輪書を読む 水之巻 32  一 しうこうの身といふ事

一 しうこうの身といふ事

●原文 秋猴(しうこう)の身とは、手を出さぬ心なり。敵へ入身に少しも手を出す心なく、敵打つ前、身をはやく入るる心也。手を出さんと思へば、必ず身の遠のくものなるによつて、惣身(そうみ)をはやくうつり入るる心なり。手にてうけ合はするほどの間には、身も入りやすきもの也。能々吟味すべし。

○私訳 秋猴とは猿のことである。それも手の短い猿をそう呼ぶ。秋猴の身とは、この手短かの猿の如く、手を出さぬことを要とする身の捌きである。つまり、敵へ入り身を為すに際して、決して手を出そうとせず、敵が将に打とうとするその出鼻を捉えて、素早く身を入れ、敵の身に付くのである。手を出そうとすると、必ず身は逃げるものである。そうではなく、身体全体を素早く入れることが重要なのである。手が触れる程の距離とは、また、身を入れ易い距離でもある。良く研究せよ。

★兵法三十五箇条の29 しうこうの身と云事 「秋猴の身、敵に付く時、左右の手なき心にして、敵の身に付くべし。悪敷(あし)くすれば、身はのき、手を出す物也。手を出せば、身はのく者也。若(もし)左の肩かひな迄は、役に立べし。手先にあるべからず。敵に付く拍子は、前におなじ。」

★兵法三十五条の23 枕の押へと云事 「枕のおさへとは、敵太刀打出さんとする気ざしをうけ、うたんとおもふ、うの字のかしらを、空よりおさゆる也。おさへやう、心にてもおさへ、身にてもおさへ、太刀にてもおさゆる物也。此気ざしを知れば、敵を打つに吉(よし)、入るに吉、はづすに吉、先を懸るによし。いづれにも出会う心在り。鍛錬肝要也。」

☆しゅうこう(秋猴または愁猴)を手持ちの辞書で調べたが載っていない。日本猿は秋猴なのか、手短かに対する手長の猿とは何なのか、良く分からない。分からないと言えば、(日本の猿が秋猴だとして)猿のどんな動きが入り身の見本となるのかも良く分からない。

☆猿のトリビア 猿の啼き声というと「キャッキャッ」を思い浮かべるが、昔々の日本では、武蔵の頃も多分、猿の啼き声は「ホーホー」だったらしい。
キャッキャッは警戒の声、ホーホーは穏やかな呼び声だそうである。
勿論、当時も今も、キャッキャッともホーホーとも猿は啼く訳だが、当時と今と、人に聞こえる啼き声は変わった。猿と人間の関係が変わったということなのだろう。
そう言えば、犬猿の仲という言葉もある。作物の猿害対策として番犬が飼われたという経緯でもあるのだろうか。

☆「手を出せば、身はのく物也」なる程と思う。
肩や腕は役に立っても、手先は用にならないという。イメージだが、手先には、防御のニュアンスがある。中途半端なことをしても、敵の中には入れないということか。拡大解釈は良くないが。