50を過ぎて剣術入門、気がつけば60超え

古武術の稽古日記です。

合気道はやりやすい?

武道やスポーツにほとんど縁がないままアラフォーを過ぎ、或いはそのままフィフティーを通り越して、初めてなにか身体を動かすことを始めようとと思い立ち、どうせなら護身術も兼ねてなにか武道がいいと考えた時、なんとなく緩そうな合気道を候補に考えた人に一言。

中高年から始める緩い武術として、合気道という選択はありか?

結論はもちろん「あり」。ただし、留保付のYESです。
「3年、せめて1年、成果を得られなくともめげずに律儀に稽古を続けられるならば」という条件付きで、合気道の選択は正解だと思います。

良い点を挙げると、
1.筋力やスピードに頼らない、むしろ真逆の指向を持つ武術だから、年齢、性別に拘束されない。
50、60を過ぎて始めても、充分有段者になれる(真面目に稽古すれば、の話だけど…因みに真面目とは週1回程度の稽古をあまり休まずに続けるというレベル)

2.体格(含む膂力)も、初心の内こそ有利不利がありうるけど、一定の水準以上になれば、関係ない。むしろ小柄な方が有利かもしれない。
武田惣角という合気道の開祖みたいな先生は、「体格の良い者には柔術を、小柄な者には合気道合気柔術)を教えた」というエピソードを聞いたことがあります。
逆に、力の強い者には、その力に頼らない(その力を捨てる)という課題がより強く求められることになります。

3.筋トレはまったく不要。むしろ有害。
因みに、この筋トレ不要は、私が合気道を選んだ大きな理由の一つです。
筋トレ不要はその通りなのですが、誤解を生むので捕捉します。
(当会では)力やスピードを排除します。その代わりに依拠するのが、日本古来の身体使いです。例えば、体の落下のエネルギーを使う、地面を蹴らない、胸や膝、腰の緩みで動く…など一例ですが、その習得は一筋縄ではいかないものです。その過程で、これまで使ってこなかった筋肉を使う(鍛える)必要が出てくると思います。
だから、筋力(の鍛錬)がまったく不要という訳ではありません。なにせ武術は武術なのですから。だがそれも、普段の稽古の中でこなせるもので、課外の鍛錬は要らないと思います。

4.齢をとって若い者を投げ飛ばすのはかっこよい。
亀仙人のイメージですが、合気道が一番合っている気がします。

悪い点
達成感の得にくい武術である。これに尽きます。
理由は、上記の利点の裏返しです。

日本古来の身体使いで技を掛けると書きました。
それ故に、女性が大男を、老人が若者を投げられる訳です。
しかし現代の我々は、日本古来の身体使いを忘れています。或いは、身に付けていません。今の我々の身体使いは、日常着が着物からズボンに変わった如く、西洋式です。

早い話、和式の便所に10分しゃがんで、そのままスッと立つなんて芸当、どれ程の中高年ができるか。私を含め、大抵膝や腰に障碍を抱えているし、普段和式など使っていないから膝の筋力がない。その彼らも昔は出来たのだろうから、中高年にとっては能力が衰えたという例だろうけど、若者はそもそも出来ないかもしれない。小学生がしゃがむと、後ろに倒れてしまうなんて話もずいぶん前に聞きました。

つまり、昔の、それもせいぜい昭和初期から昭和の30年代位までの日本人に、当たり前に出来たことが今の我々には出来ません。
これが、現代の我々の出発位置です。

比喩的に言うと、メートル法の物差しで着物を裁つのに擬えられます。
言うまでもなく、着物は日本古来の尺と寸の世界です。鯨尺という尺と寸の物差しならば、ピッタリ簡単に着物の寸法を測り、裁断することができます。
しかし、我々はメートルの物差ししか持っていない。1寸=3.03cm、1尺=37.8cm(鯨尺)と換算しながら採寸し、同時にその換算に習熟して尺と寸の世界でものを捉えられるようになる必要がある。
その尺と寸の世界に踏み込んで初めて、着物の本当の世界が拓けると私は考えています。

これには、時間がかかります。
(少し誇張して言うと)相手に手首を掴まれた時に、腕を動かさぬまま相手の腕を振りほどけ、なんてことを平然と要求される。
つまり、最初は何をやっているのか分からない。

うまく出来た、出来ない以前に、何をやっているのか自分で把握できない、良い悪いと指摘されても、良い悪い自体が自分で判断できないという何とも中途半端な煮え切らない状況が続きます。

この稽古しても、得られるものの乏しい、達成感の満たされぬ稽古をどこまで我慢できるかが分かれ目だと思います。
1ト月か2タ月我慢できれば、断片であれ分かり始め、初歩の技を掛けられるかもしれません。少し達成感を得られ始めると思います。
1年続けられれば、ある程度のことは習得ないし理解出来て(あくまで初歩レベルですが)、3年真面目に稽古できれば黒帯も不可能ではないと思います。

という訳で、合気道はお勧めだけど、最初は面白くないと思うよ、やるなら覚悟してねというのが結論です。

(付記)合気道にはたくさんの会派があって、会派ごとに内容が大きく違っているらしいと聞いています。上記は、私の属する「楽心館」という団体の話です。
合気道は剣を使わぬ剣術」というのが、理合(理論)を象徴する言葉で、武田惣角の直接の流れを引くものです。