50を過ぎて剣術入門、気がつけば60超え

古武術の稽古日記です。

殺人刀と活人剣

殺人刀(せつにんとう)  活人剣(かつにんけん・かつにんとう) という言葉がある。
有名な言葉だから、耳にしたことがある人も多いと思う。柳生新陰流の「兵法家伝書」に載っているから、新陰流の用語かもしれないが、広く援用される一般的な語であるのかもしれない。

さて、その意味である。
字面の漢字の印象から、方や「殺人」で人を殺傷する剣技であり、方や「活人」として人を活かすという単なる剣技を超えた剣技乃至剣の極意に関する観念というようなイメージを持ちがちである。また、そのように説明する指導者、解説者もあるやに聞く。
だが、それは違うと先生は言う。
これは単純に技術的な概念であって、技をタイミングによって分類したものに過ぎぬ。殺人、活人という漢字の印象から、宗教的、形而上的な余計な修飾を施すことは実際の稽古とは無縁の者のなせるわざであるとまで言う。

技のタイミングとは、この場合「先(せん)」の取り方ということだが、これには3種がある。因みに先とは、「先手必勝」と言う時の先手のことである、ひとまずはその程度の理解で。
第一は「先」。この先を取るものが殺人刀である。先と言いながら、実は相打ちのタイミングである。例えば「切落し」がこれにあたる。
これより早く「先の先」。
逆に遲く「後の先」。後の先とは、相手に充分の動きをさせた上で切り返すもの。後の先をとるものが活人剣である。例えば「受流し」がこれにあたる。相手を働かせる分、殺人刀より難易度は高いかもしれない。

活人剣なる名前があれど、相手を斃(たお)すべき剣術の剣技に変わりはない。その目的は、可及的速やかに相手を殺傷することである。「鞘の内」(さやのうち)なる言葉がある。剣は抜くまでが勝負である。一旦鞘を放てば、如何に速く、無駄なく、効率よく相手を斃すかのみとなる。それが剣術であると思う。