50を過ぎて剣術入門、気がつけば60超え

古武術の稽古日記です。

五輪書を読む 水之巻 10 兵法身なりの事-2 2009.04.02

姿・形について 続き2

●原文 くびはうしろのすじを直に、うなじに力をいれて、肩よりは惣身はひとしく覚へ、両のかたをさげ、背すじをろくに、尻を出さずに、ひざより足先まで力を入れて、腰のかがまざるように腹をはり、くさびをしむるといひて、脇差のさやに腹をもたせて、帯のくつろがぬやうに、くさびをしむるといふおしへあり。
惣而(そうじて)兵法の身におゐて、常の身を兵法の身とし、兵法の身をつねの身とする事肝要也。能々吟味すべし。

○私訳 首は後ろの筋を真っ直ぐに伸ばす。うなじに力を入れて、肩から全身を一体のものと捉える。両肩を下げ、背筋を真っ直ぐ立て、尻を出さず、膝から足先に力を込める。腰が曲がらぬように、腹を張る。脇差の鞘に腹を持たせかけて、帯が緩まぬようにする事を「楔を締める」というが、楔を締めるように腹を張るのである。
まとめて言えば、武家にあっては、平時の立居振舞が争闘の時の立居振舞であり、争闘の身のこなしが平時の身のこなしであるとしなければならない。このことをよくよく研究しなければならない。

☆たまたま別の本を読んでいたら、五輪書のこの箇所が引用されていた。
その書によれば、ここで述べている(立ち姿の)姿勢は、能の姿勢と同じものだそうである。詳細は触れないが、それも表層の筋肉を使うのではなく、深層の筋肉を使う身のこなしだそうである。1例だけ挙げると、「膝より足先まで力を入れ」とある。これを正しく行えていれば、ふくらはぎの筋肉は力が抜けて柔らかいままだそうであって、実際能楽師はそのように立ち、舞っているとの由である。他の部位についても然るべく。

「くさびをしむる」とはどういう事なのか、よく分からない。この語が不明な故か、文法的にもここの箇所をよく理解できない。無理やりこじつけたけど、脇差はおろか、着物とも無縁なせいでもある。着物を着る人、日本舞踊をやる人には分かるのかもしれない。

何と言うか、この段で触れられているのは立ち姿の心得という極めて限定的なテーマだが、それだって掘り下げようと思えば何ページでも書けるだろう。例えば、うなじに力を入れる動作は、足先に力を入れるという動作と直接に繋がっている。況やそれを身体に覚え込ますとなると、修行という領域となる。
各段は、「能々(よくよく)吟味すべし」という言葉で締められているが、ここに書かれた言葉はヒントに過ぎなくて、各人が夫々自分で工夫するしかないのだろうと改めて思う。